【事例:不動産問題】権利濫用の認定により、対抗力のない賃貸借契約を保護

<本記事のポイント>

・民法上「売買は賃貸借を破る」の原則がある

・しかし「権利濫用」の認定により、土地賃貸借契約の効力を優先できる

・裁判所の心証を得るためには、あらゆる証拠に基づいた立証が不可欠

<事案概要>

50年近く山林を賃借して苗木の採取販売業をしていた依頼主から

「山林が売却され退去を求められている。新所有者は我々の業務を横取りするために山林を買って我々を追い出そうとしているらしい。どうにかして賃貸借契約を新所有者に対抗して退去せずに事業を継続できないか」

という相談を受けました。

<経緯・解決内容>

民法では「売買は賃貸を破る」と言われるように、登記などを備えていない土地賃借権は土地の売買の効力よりも劣るとされるため、依頼人は山林から退去しなければなりません。

しかし、依頼人は山林の旧所有者と長年にわたる信頼関係を維持してきたため、わざわざ賃貸借契約の登記などをしなければ自分の賃借権が保護されないなどと考えもしませんでした。また、新所有者は依頼人の事業が業績順調であることに着目し、山林を取得することでその背後にある広大な苗木採取場も含めて、依頼人の事業を横取りするか、あるいは依頼人を子会社にさせる計画を企てていたことが様々な調査や資料の分析から明らかになりました。

そこで、当事務所では依頼人の代理として、新所有者に対して、明渡請求は不法・不当な目的のための請求であり、権利濫用にあたり許されない旨を主張することとしました。

このような主張は、「売買は賃貸を破る」という原則の例外を認めることになるため、裁判所に原則を適用できないという心証(事件に対する見方)を採らせることが何よりも重要になります。

当事務所ではあらゆる証拠の提出、書面の作成に尽力し、新所有者が山林を取得する以前から依頼人の事業に目をつけていた背信的な悪意者であることを立証しました。

最終的に、不法・不当な目的で山林を取得した新所有者の請求は、形式的には正当な請求に見えるものの実態は法の趣旨に反して許されない権利の濫用であることが認められ、山林から退去せず事業を継続できることになりました。

<解決のポイント>

本件でのポイントは、以下の2つです。

  • 不法・不当な目的を持って山林を取得した者の背景事情を徹底的に洗い出した
  • 民法上「売買は賃貸を破る」の例外事案として認定されなければ依頼人の救済が図れないことを法律上・事実関係の双方から説得的に主張立証を行う

裁判所は法律の原則にしたがって法律問題を判断するため、例外を認めることに対して慎重かつ消極的です。裁判所の心証を変えさせる上で、新所有者に依頼人の事業を乗っ取ろうと事前に計画していた不法・不当な目的があったことを説得力を持って具体的に主張・立証することが本件での鍵となりました。

当事務所では、依頼人の山林賃貸借契約や新所有者の売買契約などの契約資料のほか、新所有者の事業に関してあらゆる資料を収集・分析し、新所有者の近年の事業の動きなどを詳細に調査しました。

訴訟提起から数年かけて書証を提出し、以下の3点を立証するに至りました。

  • 当初から苗木採取販売業を行う計画で依頼人の事業の横取りを計画していたこと
  • 計画を進めるため行政も巻き込んでいたこと
  • 賃貸借契約の登記がされていなかった点に依頼人の落ち度はなかったこと

裁判所の原則に対する考えは根強いものがありましたが、最終的には当方の主張どおり新所有者の請求が権利の濫用であり許されないとの心証が形成されるに至りました。この結果、依頼人における山林の賃貸借契約の存続が確認され、事業の継続につながっています。

当事務所では、裁判所の認定が困難な事案であっても、あらゆる方向から主張・立証を入念に行い、裁判所の心証を形成していきます。不動産問題でお困りの方は、一度弁護士に相談してみてください。

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