<本記事のポイント>
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法律上は最後に作成された遺言が法的効力を持つ
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無効にするためには客観的/医学的記録の分析が不可欠
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合わせて、分析から法的主張として再構成する作業が重要
<事案概要>
長年介護に尽力していた実母が遺した遺言書によって実母の財産を受け継いだ依頼主から
「長年音沙汰がなかった兄姉から,突然,遺産の返還を求められて訴えられた。私が知っている遺言書の後にも違う遺言書が作られていて,そこには母の遺産は全て兄姉が受け継ぎ私には相続させないと書かれていると言われた。しかし,私は母と長年一緒に暮らして面倒を見てきたし,晩年母から任意後見人も頼まれるなどしており,母がそのような遺言をするとは到底信じられない。」
という相談を受けました。
<経緯・解決内容>
本件では,本当に実母が依頼主を排除するような遺言を作成したのか(遺言の自署性),仮に百歩を譲ってそのような遺言書を作成したとしてもそのとき実母には遺言をするための判断能力(遺言能力)があったのかが問題となりました。
開示された遺言書の筆跡は確かに実母の筆跡のようでしたが,依頼主から事情を聴くと,兄姉が持っていた遺言書は実母の真意によるものとは考えられなかったため,当事務所ではその遺言書の有効性について様々な角度から検討を行いました。
依頼主の話では,実母は長年病院にかかっており,かつ,晩年は認知症を患っていたとのことなので,生前の医療記録を可能な限り取寄せるとともに,介護施設にも足を運び晩年の介護記録も可能な限り入手しました。
そうしたところ実母は医師との面談時に依頼主の兄姉に対して否定的な心境を抱いていた記録が多数残されていました。また,少なくとも依頼主の兄姉が持ち出してきた遺言書が作成されたと予想される時期には認知症がかなり進行しており判断能力が相当低下していたことが医学的な観点から明らかとなったのです。
そこで,訴訟においては兄姉側が主張する遺言書は実母の真意で作成されたものではなく自署性が否定されるという主張を展開する方針を立て,
- 兄姉側の遺言書は医療記録に記録されている実母の数十年にわたる行動とは全く整合しない内容であること
- 依頼主が受け継いだ遺言書と極端に相反する内容になっていること
- 実母にはそのような相反する遺言をする動機・理由が全くないこと
- 兄姉側の遺言書の作成時期には実母の判断能力が著しく減退していた可能性が高いこと
以上、4点を医療記録等に基づき詳細に主張・立証しました。
最終的には,関係者の証人尋問を経て,第一審では兄姉側の遺言書は無効である(=実母が真意で作成したものとは認められない)との理由で当方の全面勝訴となり,兄姉側は控訴しましたが,第二審でも第一審判決が全面的に支持され,当方勝訴の判決が確定しました。
<解決のポイント>
本件では,依頼主が遺産を受け継ぐ内容の遺言書と兄姉が遺産を受け継ぐ内容の遺言書という相反する2つの遺言書が存在していた事案でしたが,法律上は,最後に作成された遺言書に法的効力が認められることになっているので,時系列だけでみれば兄姉側の遺言書が正しいということになってしまいます。
これに対抗するには,2つ目の遺言書を無効であることを主張立証しなければなりません。
遺言書の無効を主張立証するためには,単に作成者がそんな内容の遺言をするわけがないと主張するだけでは足りず,客観的な記録を分析して確固たる事実を丁寧に拾い上げ,裁判所を説得しなければなりません。
その過程では医学的な分析も必要になるのですが,そのためには医療記録や介護記録を収集して将来の法的主張に役立つ記載を丹念に拾い上げ,それらの事情を法的主張として再構成する作業も求められます。
そのような分析・検討を経て,最終的には証人尋問で詳細な事実を洗い出して,当方の主張の正当性を補強することで,裁判所の理解を得られ,依頼主にとってベストな結果を導くことができた案件でした。
相続・遺言でお困りの方はぜひ一度弁護士に相談してみてください。